意外と知られていない肩こりの原因と治療法
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The Pacific Wellness Institute

筑波技術大学、客員研究員

国際バイオフィードバック認定連合, フェロー

 田中秀明

2017 06 03

肩こりを訴える方は首から肩にかけての僧帽筋の過緊張が認められます。僧帽筋は頭や腕を支える筋で、長時間の座り仕事やコンピューターマウスの反復使用で持続的な負担がかかっています。疲労物質がたまり筋疲労や痛みが発生しやすい状態となります。しかしながら、僧帽筋は姿勢や動作などによる機械的ストレスのみでなく精神的なストレスによっても筋の過緊張や疲労が起こります。筆者の経験では、こちらのほうが根本原因となっている場合の方が多く、慢性の肩こりで、マッサージ等へ通っても一時的な効果しか得られない方の多くはこのタイプです。

僧帽筋と精神的ストレスの関係について

スポーツの試合等では選手の緊張を解くため「肩の力を抜いて…」とトレーナーが声をかけることがありますが、これは肩(僧帽筋エリア)の緊張が緩むと精神的な緊張がほぐれリラックスできることが経験的にわかっているからです。

これとは反対に多くの人は精神的に緊張すると肩背部に余分な力が入り、この状態が続くと肩こりの原因となります。この肩背部の緊張と精神状態の密接な関係は、筋電図を用いた実験においても示されています。




僧帽筋と精神的ストレスの筋電図学的検討

Biofeedback Certification International Allianceという精神科医、心理学者、および理学療法士を主な会員とする団体があります。

バイオフィードバックは患者の脳波、脈拍、皮膚温、筋活動などをモニターしながら心理療法や運動療法をおこなうもので特にアメリカでは広く様々な疾患の治療に応用されています。

患者の精神状態の判定には、心拍数や手指の汗腺の状態を測る器械(所謂うそ発見器)が一般的に用いられています。バイオフィードバックの専門家のあいだでは表面筋電図も積極的に取り入れられています。筋電図というのは、筋肉が緊張し収縮した時におこる放電活動をとらえ記録する器具です。患者さんに 筋電図の電極を肩の僧帽筋上部へ貼り付け椅子にかけてもらいます。じっと座っている場合は筋電図のグラフはフラットですが肩や腕をあげたりしてもらうと筋肉の収縮活動とともに筋電図活動(積分筋電図波形)の上昇が認められます。興味深いのは、筋をうごかさずとも暗算や過去の不快な思い出を想起させるなど筋電図に変化がみられるという現象です。ストレスや心理的な負荷をかけることで、筋電図に変化が表れやすい筋肉は僧帽筋上部と頭の額にある前頭筋です。悩み事をしているひとは額に皺を寄せたり、肩に力が入ったりしています。これを筋電図が捉えているわけです。

バイオフィードバックの専門家は、顔面や頸肩の筋肉と心理状態の密接な関係に着目し、頸肩などの筋を緩めることで不安神経症などの精神的な症状に対処しています。それとは逆に心理療法などで精神をリラックスさせて交通事故後遺症による頸部むち打ち症の治療をおこなっている専門家もいます。

以上のことから、鍼や灸を対症的に首や肩のみに行っても一時的な解決にしかならないことがわかります。伝統的な鍼灸治療ではお腹、腕や足にあるツボが重要視されています。これらの部位には東洋医学でいう「心」と関係のあるツボが多くあります。筆者が行った研究においては、手首付近の外関というツボに鍼刺激を与えると僧帽筋と前頭筋の筋電図活動を低下させることが認められました。[1]

パシフィックウエルネスで行っている肩こりに対する鍼治療は痛みのある部位のみでなく全身に鍼や灸をおこないます。また、ストレスや不安神経症等に対する補助療法として心拍変動バイオフィードバックを応用した呼吸運動を鍼治療に取り入れています。

[1] Tanaka, T.H., Leisman, G., Nishijo, K.  The Physiological Responses Induced by Superficial Acupuncture: A Comparative Study on Acupuncture Stimulation During Exhalation Phase and Continuous Stimulation.  International Journal of Neuroscience, Vol. 90, No. 1-2, 45-58, 1997  [Medline]
 




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