不妊と鍼灸 Q & A パート1
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鍼治療は不妊症に効果的なの?

Infertility and Acupuncture Q & A 鍼治療は不妊症に効果的なの?

 

回答、解説:田中秀明

Ph.D., R.Ac., R.TCMP (カナダ、オンタリオ州)

筑波技術大学、鍼灸学科、客員研究員

The Pacific Wellness Institute、Clinical Director

更新:2016年12月

Q:  なかなか妊娠しません。鍼治療に興味はありますが効果はあるのでしょうか?

A:  長年にわたり鍼灸療法は不妊症や妊娠を妨げる様々な婦人科疾患の治療に用いられ効果が認められています。Pacific Wellnessでは、過去30年近く妊娠困難でお悩みのカップルの治療に携わっております。

解説:これまでの研究により鍼治療は、卵巣の血液循環を促し、卵巣機能を高め、卵(卵胞)生成を促進するとの報告があります[1]。また、受精卵の着床に重要である子宮内膜の厚さの向上、子宮血流を高めるとの報告もあります[2, 3]。鍼治療により促されるこれらの反応はいずれも妊娠に好影響を及ぼすと考えられています[4]。鍼治療は妊娠しやすい体づくりをサポートします。

 

Q: 鍼で女性ホルモンのバランスを整えることができますか?

A: 定期的な鍼治療や生活習慣の改善で多くの場合ホルモンの分泌異常やアンバランスが徐々に整っていきます

解説:Pacific Wellnessへはホルモンバランスの乱れや分泌異常でお悩みの方が多く来院されております。例えば卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン(プロゲステロン)、プロラクチン、抗ミュラー管ホルモン(AMH)など。多嚢胞性卵巣(PCOS)と診断された女性に対し生殖ホルモンの分泌パターンの改善を示した研究[5, 6]もあり、多くの場合、鍼は単独、または補完療法としてホルモン異常の改善に効果的です[7]。 また甲状腺ホルモンや副腎ホルモン等の異常も性ホルモンに悪影響を及ぼすことがわかっており[8]、これらに対しても鍼治療は有益であることが多いです。

 

Q:  生理不順で月経周期が乱れぎみなのですが?

A: 原因にもよりますが、鍼や漢方治療で徐々に定期的なサイクルになっていくケースが多く認められます。

解説:鍼治療は、視床下部 – 下垂体 – 卵巣/性腺(HPG)軸と視床下部 – 下垂体 – 副腎(HPA)軸という神経、内分泌の制御機構を介し、女性の月経周期の調整に有効であると考えられています[6, 9]。

Pacific Wellnessへは経口避妊薬(低用量ピル)をやめて数ヶ月たっても生理がこないと訴える方が頻繁に来院されます。このようなケース(post- pill amenorrhea)においても鍼治療後に月経の正常サイクルが戻ってくる場合が多くあります。

 

Q:  卵巣や子宮の血行が重要と聞きましたが鍼で血流をよくすることは可能ですか?

A: 鍼治療は、卵巣及び子宮への血流を改善させることが示されています。

解説:卵巣への血流は栄養を送り込み良質な卵の形成に大切な役割を果たします。また、子宮内膜の血流は、胚(受精卵)の着床のために重要です。不妊専門医により低用量アスピリンなどの抗凝血薬(血を薄くする薬)やクエン酸シルデナフィル(バイアグラ)などが処方されることがありますがこれらも子宮への血流を増加させるための治療の試みの一例です[10]。ヒトや動物をもちいた実験で鍼治療は、卵巣及び子宮への血流を改善させることが示されています[3, 11-17]。

漢方医学の観点からは、血液(気血)の適切な流れは、健康な営みのために最も重要な要因と考えられています。子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢腫、卵管障害、月経困難症、および無月経など婦人科疾患の多くは、東洋医学でいういわゆる瘀血(おけつ:古い血液の停滞)に関連していると考えられています。体質的に血行がよくない方は慢性的な手足や体幹部の冷えがあり(いわゆる冷え性)、静脈瘤、月経痛、経血中に黒い固まりが見られる等の症状が認められます。冷えを改善し、血のめぐりをよくすることで、より妊娠しやすいカラダへと近づいていきます。

 

Q:  不妊クリニックで子宮内膜が薄いといわれたのですが?

A: 鍼治療で子宮血流をよくし内膜を改善させることが期待できます。

解説:排卵時の子宮内膜の厚さは最低でも8 mm以上が望ましいとされています。子宮内膜が薄すぎるとせっかくうまく受精した卵が着床しづらくなり、また着床しても早期流産の可能性が高くなります。検査で指摘されてないかたでも、生理の量が少なくっている場合は内膜が薄め傾向の可能性があります。

また、子宮内膜は厚さだけでなくパターン(3層構造)も重要といわれています。子宮環境をなるべくよい状態とするのが着床に重要と考えられます。

子宮内膜がうまく発達しないのは漢方医学的には冷えや、血の不足、または古い血の停滞(瘀血)などが原因と考えられます。これらは、鍼や漢方薬で血のめぐりをよくすることにより改善が期待できます。

なお、体質にもよりますが内膜が薄い場合は食事に週2日から3日、赤身のお肉(オーガニックビーフなど)をとりいれることで改善が期待できる場合があります。

 

Q:  FSHAMHの検査結果が良くありませんでした。卵の質に問題があるのか心配なのですが?

A: 鍼治療と生活習慣の改善で卵巣機能をなるべく高めることが重要です。

解説:生理3日目のFSHが10以上の場合やAMHの値が低い場合などは卵の質が不妊の原因となっている可能性があります。卵巣機能が低下している状態なので、排卵誘発剤を使用しても卵胞がうまく成長しにくい場合もみられ体外受精(IVF)も困難となる場合もあります。

残念ながらDay3 FSHは加齢とともに高く(AMHは低く)なる傾向にあり現代医学でも効果的な対処法がないのが実情です。

ただし、年齢には「実年齢」と「機能年齢」があることを念頭におく必要があります。「実年齢」は皆同じスピードで加齢します。「機能年齢」は人それぞれ加齢の速度が違います。したがって、40を超えていてもFSHは正常値で卵子は比較的若いという方も数多く存在するわけです。

また、FSHやAMHの数値が悪いと妊娠しにくいのは事実ですが不可能というわけではありません。私の患者さんでドナー卵IVFへ備えて鍼治療中に2度自然妊娠された方がいますが、2度とも妊娠前のDay3FSHは30オーバーでAMHは0ポイント台でした。この患者さんはすこし特殊な例ですがFSH20 前後の高値を示していて妊娠された方はこれまで何名もおられます。

私の経験ではストレスや生活環境その他の影響で一時的にFSHが高めになっている方もおられます。そのような場合に関しては鍼治療と生活習慣の改善で数値が良くなっていく場合が多いと感じています。

 

Q: 鍼での若返り(特に卵子の若返り)は可能ですか?

A:  卵子を若返らせることは容易ではありませんが機能年齢への働きかけで老化スピードを遅らせることは可能と思います。

解説:上にも記したように「実年齢」は時間の流れによるものなので皆同じスピードで加齢します。それに対し「機能年齢」は生まれ持った体質もありますが生活習慣の違いで加齢の速度が大きく変わります。細胞の酸化を促進する生活習慣(例:喫煙、不健康な食生活、睡眠不足、ストレス、運動不足または過多)は生物学的加齢を速めてしまいます。

鍼で若返りが可能であるというと少し語弊がありますが機能年齢への働きかけは十分可能です。たとえばわたしの患者さん(50代半ば)はすでに数年前より生理がこなくなっていましたがストレス解消の鍼治療を行っていたところ生理が毎月おとずれるようになりました。他に何例かの閉経女性で似たような経験をしていますが、これなどは機能年齢が逆戻りしたともいえるのではないでしょうか。

卵子を若返らせることはなかなか困難ですが定期的な鍼治療と生活習慣の改善で少なくとも老化スピードを遅らせることは可能ではないかと考えています。

 

Q: 検査で卵管が詰まっているとの結果がでましたが対処法などはありますか?

A: 両側とも詰まっている場合は自然妊娠は困難です。お早めにIVF専門医へ相談してください。

解説:自然妊娠(または人工授精IUI)の場合は、少なくとも片方の卵管はオープンでその側から排卵があることが必須条件です。両側ともつまっている場合は体外受精(IVF)が最適オプションで鍼はIVFの補完的治療となります。

卵管がつまる原因としては子宮内膜症や性感染症、子宮外妊娠等があげられます。お心当たりがない場合はしばらくして再検査を受けて見られるのもお勧めです。卵管が一時的に痙攣していた場合などはBlocked と判定されることがあるからです。

ちなみにだいぶ前ですが、20代の女性で両卵管とも詰まっているといわれた患者さんがいました。再検査の結果も同じでしたので予定している体外受精に備え鍼を行っていたところ自然妊娠されました。ご本人も大変驚いていました。なんらかの拍子で片方の卵管が開いたものと思われます。鍼で骨盤内血流が良くなったのも一因と考えることもできますが、長年数多くの症例を経験していると稀にこういうこともありうるということで、両卵管が詰まってしまっている場合はやはりIVFを第一選択肢として検討されるべきです。

 

Q: 排卵検査薬で排卵日をチェックしていますが 基礎体温は続けたほうがよいですか?

A: ストレスにならないようであれば基礎体温も続けたほうがよいです。

解説:排卵日の事前特定には不妊クリニックでの血液検査や家庭用の簡易排卵検査薬のほうが優れています。

基礎体温は別の利点があり、毎日体温を正しく測ることで月経サイクルのホルモン分泌の推移を観察できます。黄体機能不全等の経過観察にも有用ですので出来れば継続して行ったほうがよいです。サイクルに合わせた鍼治療の参考ともしますので付けているグラフを定期的にお持ちください。

ただし、毎朝体温の上がり下がりに一喜一憂し検温自体がストレスとなっているような場合は、逆効果ですのでしばらく中止されたほうがよいです。

 

Q: 東洋医学と不妊の本に不妊鍼治療の成功率は75%であると記されていましたが本当ですか?

A: 統計的に導き出された数値ではなく根拠のない主張です。

解説:不妊鍼で有名な米国人鍼灸師著の本にそう記されているようです。反響が大きかったようで、その影響で当院へも成功率に関する問い合わせが相次いでいた時期があります。患者さん側のお気持ちはわかりますが、「クリニックの成功率」は、そこへ来院している患者層の特徴をおおまかに反映したものでしかなく、意味のないことです。

妊娠率は年齢、婦人科疾患の有無、男性側因子の有無ほか様々な要因が大きく影響するのは周知の事実です。比較的若く、特に婦人科疾患もなく、夫も健康であるような層が多いような場合は75%以上の成功率であっても不思議ではありませんし、逆にカップル両方に問題があり、年齢も40代以上という患者層が多くを占めているようなところだと成功率は低めになるでしょう。

米国のIVFクリニックで公表されている成功率は年齢および妊娠率に影響するさまざまな要素(交絡因子)を除外、層別化したうえで算出されています。

一部鍼灸師を含め特に代替医療の関係者は、上記の要因を考慮せずに漠然と成功率に言及する場合がありますのでご注意ください。




Q: 夫側に問題があるようなのですが鍼治療と男性因子不妊についてはどうですか?

A: 鍼や漢方療法で良好な結果が得られる場合があります。

解説:不妊カップルの約半数は男性側の問題といわれています。不妊症に対する鍼研究の多くは女性を対象としていますが、男性側因子に対し鍼治療の有効性を報告した研究もいくつかあります[18-20]。

Pacific Wellnessでは精子の数、低運動率、形態異常、DNA断片化率など男性不妊に対し鍼または漢方薬併用で顕著な改善が認られ妊娠に至ったケースを多く経験していますが反応が鈍い例もあります。

精子の形成サイクル(精原細胞-精子)は約70~90日間といわれていますので、通常は3ヶ月の試験的治療をお勧めしています。

不妊と鍼灸 Q & A

パート 1: 鍼治療は不妊症に効果的なの?

パート 2: 不妊鍼の実際 - どこになぜ鍼をするの?

パート 3: 鍼治療と人工受精(IUI)または体外受精(IVF)など高度生殖医療(ART)の併用について 

このよくある質問のオリジナルバージョンは、2002年にacupuncture-treatment.comにアップロードしました。また、2014年アップデート版はacupuncturemoxibustion.comに掲載しました。このQ&Aはオリジナルの英語バージョンを抜粋し日本語で加筆、訂正したものです。

2016年12月

Our Acupuncturist Coauthored a Book on Infertility

文献

  1. Emmons S, Patton P: Acupuncture treatment for infertile women undergoing intracytoplasmic sperm injection. Medical Acupuncture: A Journal for Physicians by Physicians 2000, 12(2).
  2. Ho M, Huang LC, Chang YY, Chen HY, Chang WC, Yang TC, Tsai HD: Electroacupuncture reduces uterine artery blood flow impedance in infertile women. Taiwanese journal of obstetrics & gynecology 2009, 48(2):148-151.
  3. Stener-Victorin E, Waldenstrom U, Andersson SA, Wikland M: Reduction of blood flow impedance in the uterine arteries of infertile women with electro-acupuncture. Hum Reprod 1996, 11(6):1314-1317.
  4. Chang R, Chung PH, Rosenwaks Z: Role of acupuncture in the treatment of female infertility. Fertil Steril 2002, 78(6):1149-1153.
  5. Johansson J, Redman L, Veldhuis PP, Sazonova A, Labrie F, Holm G, Johannsson G, Stener-Victorin E: Acupuncture for ovulation induction in polycystic ovary syndrome: a randomized controlled trial. American journal of physiology Endocrinology and metabolism 2013, 304(9):E934-943.
  6. Stener-Victorin E, Waldenstrom U, Tagnfors U, Lundeberg T, Lindstedt G, Janson PO: Effects of electro-acupuncture on anovulation in women with polycystic ovary syndrome. Acta Obstet Gynecol Scand 2000, 79(3):180-188.
  7. Gerhard I, Postneek F: Auricular acupuncture in the treatment of female infertility. Gynecol Endocrinol 1992, 6(3):171-181.
  8. Chrousos GP, Torpy DJ, Gold PW: Interactions between the hypothalamic-pituitary-adrenal axis and the female reproductive system: clinical implications. Ann Intern Med 1998, 129(3):229-240.
  9. Stener-Victorin E, Lundeberg T, Waldenstrom U, Bileviciute-Ljungar I, Janson PO: Effects of electro-acupuncture on corticotropin-releasing factor in rats with experimentally-induced polycystic ovaries. Neuropeptides 2001, 35(5-6):227-231.
  10. Sher G, Fisch JD: Vaginal sildenafil (Viagra): a preliminary report of a novel method to improve uterine artery blood flow and endometrial development in patients undergoing IVF. Hum Reprod 2000, 15(4):806-809.
  11. Hotta H, Uchida S, Shimura M, Suzuki H: Uterine contractility and blood flow are reflexively regulated by cutaneous afferent stimulation in anesthetized rats. Journal of the autonomic nervous system 1999, 75(1):23-31.
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